有田焼・伊万里焼
耐久性が高く、美術品から日用品までさまざまな種類のものが生産されている有田焼。佐賀県有田町とその周辺地域で製造される磁器を指します。400年以上の歴史をもつとされる伝統ある製造技術で、家庭の食卓など日常のシーンにも広く行き渡っていることで有名です。
有田焼の発祥は16世紀の豊臣秀吉による朝鮮出兵にまでさかのぼるとのこと。朝鮮から連れてこられた陶工が流紋岩という陶石を有田の泉山で発見したことで、国内では不可能と考えられていた磁器の生産が始まったとされています。ちなみに流通のため伊万里港から船で出荷されていたため、全国的には伊万里焼とも呼ばれています。
軽量で耐久性に優れる
磁器である有田焼は、軽くて耐久性に優れるという長所があります。そして表面の質感はとても滑らかで、芸術性の高い絵柄が施されることが多いのもポイント。有田焼の器を1つ部屋に飾っておくだけでも、気品あるたたずまいが空間を彩ってくれます。
今日、有田焼の技術は幅広い用途に使われていることで有名です。1つ例を挙げるならコーヒーに使われるフィルター。目に見えない細かい網目状の構造で、雑味やえぐみの抑えられたまろやかなコーヒーに仕上がります。ほかにもあらゆる飲み物を透過させることで、滑らかな口当たりとのどごしが味わえると評判です。
南部鉄器
江戸時代に始まり、盛岡藩主及び仙台藩主の庇護のもとで育まれてきた鋳物の技術。現代では南部鉄器として知られており、盛岡市と奥州市で生産されています。シンプルながら深みのある質感は伝統を感じさせるとともにとてもクールで、芸術性の高さから海外でも注目を集めています。また最近ではカラフルでモダンな製品も開発されており、インテリアによくなじむということで人気です。
大きく分けて2種類
現在では南部鉄器と一言で表現されるものの、歴史的な背景と場所に従って大きく2種類に分けることができます。1つは「盛岡南部鉄器」で、もう片方が「水沢南部鉄器」です。技術として受け継がれてきた過程はやや異なるものの、いずれも日用品から仏具のような大きなものまでさまざまな鉄器を生産してきました。
南部鉄器の魅力はとにかく丈夫で長持ちするということ。重厚で割れにくく長く使える道具は、使い込み年月が経つごとに奥深い味わいを醸し出してくれます。さらに1度熱すると冷めにくい保温性も特徴です。
南部鉄器の鉄瓶や鉄玉を使ってお湯を沸かすと、鉄が水に含まれるカルキを吸着してくれます。おかげで沸かしたお湯はまろやかな味わいへと変化。また同時に、わずかに鉄が溶け出します。この鉄分は体に吸収されやすいヘム鉄という種類のもの。使っているだけで半永久的に鉄分補給ができてしまうというのも、南部鉄器を使用する見逃せないメリットです。
江戸切子
ガラス表面に刻まれたカット面の、キラキラと光を反射するさまが美しい江戸切子。ガラスの伝統工芸品として真っ先に思い当たる、有名なものの1つです。1度手に取ってみれば、その精巧さと芸術的な美しさに魅了されてしまいます。さまざまなタイプのグラスに施される技術なので、日常生活にもよくなじみます。
江戸時代に始まり明治時代に確立
江戸切子の始まりは、1834年に金剛砂を利用してガラスの表面に彫刻を施されたことだといわれています。その後1881年にエマニュエル・ホープトマン氏がカット技術の指導者として招かれ、十数名の日本人技術者たちとともに江戸切子の伝統技法が確立されました。現在に至るまでその技術は研究され洗練されてきています。
1つの江戸切子グラスを製作するためには、多くの工程が必要です。カットする工程を大きく分けると、割り付け・カット・磨き。言い換えるならまずは格子状の基準線を下書きし、それに沿って粗く削っていき、最後に表面を滑らかに研いで仕上げていくという流れで作られます。また薄く色のついたガラスをかぶせる「色被せ(きせ)」という工程も特徴的です。グラス1つ眺めるだけで匠の技が随所に光ります。
カットの深さや太さ、直線と曲線の組み合わせ次第で、光の屈折に無限のバリエーションが存在するのが江戸切子の奥深さです。職人たちは製作過程で、長年受け継がれてきた伝統紋様と新しいデザインをうまく調和させ、新たなデザインへと昇華させています。熟練の職人たちの遊び心も実に高度。覗き込むとまるで万華鏡のようにキラキラと輝いたり、実際には彫られていない部分に筋が見えたりと楽しみ方は多岐にわたります。作り手の思いが作品を通して伝わってくるかのようです。
輪島塗
輪島塗は日本を代表する漆器です。その名の通り石川県の能登半島北部・輪島市で生産されています。芸術的な美しさはもちろんのこと、強くて頑丈で壊れたとしても修理をして使い続けられるほどの堅牢性が特徴です。まさに一生ものの食器。和食を華やかに飾る輪島塗ですが、今や国内のみならず世界を魅了する伝統工芸品として発展し続けています。
複雑な工程
他の伝統工芸品にもまして、1つの輪島塗製品が完成するまでの工程は非常に複雑です。輪島産の地の粉を下地に塗り、さらには20工程以上をかけて漆を塗り上げるとのこと。最終的に数えてみれば、総手数100回を超える丁寧な手作業で仕上げられると言います。また破損しやすい部分には高度な技術で適切な補強がされるため、より頑丈で品質の高い器になるのも輪島塗として受け継がれてきた伝統技術です。職人技がここぞと詰まった器はまさに「美しい」の一言です。
輪島塗は定番のお椀から箸、さらに最近ではアクセサリーなど、さまざまな用途に使われています。輪島塗に使われる漆はとても強い素材で、まさに食器に使われるには最適。1度固まってしまった漆を溶かす方法はないと言われており、硬さと輝きを長い期間にわたって保ち続けます。石川県を訪れた際には、ぜひ1つお気に入りの食器を選んで使い続けてみてはいかがでしょうか。
手作り体験もできる輪島漆芸美術館
輪島市には、世界的にも非常に珍しい漆芸美術館が存在します。輪島塗をはじめ漆芸に関するたくさんの資料が保存されており、訪れてみればきっと漆器が大好きになることでしょう。予約をすれば、箸やスプーンなどに金属粉で色を付ける作業を体験することもできます。ご家族で訪問してみると楽しいかもしれません。
熊野筆
広島県安芸郡熊野町で生産されている熊野筆は、筆業界においては驚異の日本国内シェア8割を誇ります。書筆、画筆、化粧筆と幅広い用途に使われますが、特に化粧筆は国内外で高い評価を集めています。2011年にはなでしこジャパンへの国民栄誉賞記念品として大きく取り上げられ、知名度が一気に高まりました。
100年以上の歴史をもつ熊野筆の伝統技術。材料としては10種類以上の動物の毛が使われており、その特性が製品に最大限生かされています。毛を選ぶ工程からそれを揃えたり長さを合わせたりする作業を数えていくと、工程は20を超えるとのこと。そうして職人技を結集して作られた熊野筆は毛先が繊細で、適度なコシも持ち合わせます。1度使ってみれば手放せなくなるほどの使い心地です。
化粧品が薄く均一に広がる
メイクをする際には熊野の化粧筆を使うと化粧持ちが良いと評判です。天然毛かつ毛先を切っていないためとても滑らかな肌触り。そして毛と毛の間に化粧品がしっかりと入り、肌の上で薄く広く均一に乗せてくれるという優れもの。メイクが終わった時の仕上がりと時間が経った後の持続性、それぞれで高い効果を発揮します。メイクアップアーティスト業界で信頼されているのもうなずけます。
堺打刃物
600年もの長い歴史を通して受け継がれてきた堺の刃物生産技術は、国内のプロの料理人が使う包丁でも高いシェアを誇ります。さらには和食が海外に広がるとともに世界中の料理人たちからも注目が高まっている堺の刃物。切れ味の良い包丁でなければ成立しない、日本食を間接的に支える立役者です。
金型で打ち抜いて成型した刃物と、職人が叩きのばして鍛え上げた打刃物。比較してみれば切れ味、耐久性とも後者が圧倒的です。堺で受け継がれてきたのはまさにこちらの技術。真っ赤に熱された素材が何度も叩かれることで、金属内部の組織が密になり硬さと粘り強さが高まります。よく研ぎ澄まされた鋭角な片刃は、たとえ柔らかい食材であってもスパッと滑らかに切断できます。魚が使われることの多い和食の世界では特に重宝されてきた刃物です。
欠けにくい刃は一生もの
職人によって多くの手間ひまをかけて作られた打刃物は、メンテナンスさえしっかりすれば長く使い続けることができます。硬さだけでなく粘り強さを大きな特徴とする堺の刃物は、そもそも欠けにくいため刃こぼれせず、切れ味も長持ちするのが特徴。きっと使い続けるうちに自分の手の一部のような存在になることでしょう。
まとめ
以上、日本を代表する伝統工芸品の中で特に注目したいものを6つ取り上げました。歴史と土地、職人たちの努力が培ってきた伝統技術を、日常のシーンで身近に感じられるこれらの品々。現地を旅行して思い出として持ち帰るもよし、ネットで購入するもよし。ぜひ自分用に1つ、長く使い続けられるものを選んでみてはいかがでしょうか。